0人が本棚に入れています
本棚に追加
その時でした。
猫の鳴き声と、掻き分ける草の音。
猫は蝶々の桜へ、まっしぐらに走って行きました。
「いかん!」
おじいさんが叫んだその時には、もう遅く。
桜に止まる紋白蝶達は、一斉に青空へ飛び立ちました。
音もなく、天へ消えていく紋白蝶。
それはおじいさんの目に、ゆっくりと映りました。
そしてそれは、桜の花びらが舞い上がり、青空に吸い込まれていったようにも見えたのです。
一瞬で散ってしまった、白い桜。おじいさんは頭が真っ白になり、呆然と桜を見つめました。
しかし、乾いた景色に、最後の紋白蝶がひらり。
紋白蝶はおじいさんの肩から桜の枝に止まると、すぐに青空に飛び立ちました。
桜を愛おしむように、くるりと回って包み込みながら。
それはまるで、天使が桜の魂を空へ導いているようでした。
最初のコメントを投稿しよう!