桜と紋白蝶

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   その時でした。  猫の鳴き声と、掻き分ける草の音。  猫は蝶々の桜へ、まっしぐらに走って行きました。 「いかん!」  おじいさんが叫んだその時には、もう遅く。  桜に止まる紋白蝶達は、一斉に青空へ飛び立ちました。  音もなく、天へ消えていく紋白蝶。  それはおじいさんの目に、ゆっくりと映りました。  そしてそれは、桜の花びらが舞い上がり、青空に吸い込まれていったようにも見えたのです。  一瞬で散ってしまった、白い桜。おじいさんは頭が真っ白になり、呆然と桜を見つめました。  しかし、乾いた景色に、最後の紋白蝶がひらり。  紋白蝶はおじいさんの肩から桜の枝に止まると、すぐに青空に飛び立ちました。  桜を愛おしむように、くるりと回って包み込みながら。  それはまるで、天使が桜の魂を空へ導いているようでした。  
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