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"美女と野獣。"
俺が目覚めた時にはまだ心臓が脆い鉄の塊みたいなモンで、三十秒の簡単な運動で胸が痛み、造られた鼓動はおかしなリズムを刻んだ。
棄てられたのは同じ理由
――…動くこともままならない体じゃ、戦うなど到底無理で使いモンにならねーって。
放っておいてもそのうち勝手に死ぬだろうって決められて、曇り空の下に棄てられた。
もう死ぬなら、最期に空をちゃんと目に焼き付けたい…――
目を開けたら、逆光で闇のように見える"そいつ"が、俺の頬に手を当てた。
「おいで」
どれだけその言葉を待っていたことだろう…。
「デュー、起きなさい」
何がどうなった?
よく思い出せないな…
「早く起きてください、寝坊ですよ!」
「ソルシエール、許可するからぶん殴りなさい」
「私には出来ませんよ。ノワールじゃあるまいし…痛いっ!」
「何様のつもり?軟弱者」
誰だっけ…?
ああ、そうか…俺の上司だよな
「乱暴ですねぇ。私はブリッジで仕事がありますから、後は頼みますよ」
「逃げるなっ!こら、ソルシエールっ!」
目を開けると、走って逃げ去る副指揮官の後ろ姿と、彼を目で追って怒る総指揮官の後ろ姿。
「ああ、目が覚めたのね。寝坊よ、デュー」
「…デュー?」
「貴方の…J-09の名前。デュー=ルー…"神狼"って意味なの」
上半身を起こすと、総指揮官は俺の左胸を指差す。
「前のより新しい型番の人工心臓を入れたわ。これで貴方も普通の生活ができるはずよ」
「…ありがと」
手術台から降りようとすると、鈍った体が悲鳴を上げて、再び手術台に戻らざるをえなくなる。
「まだ無理そうね。寝ててもいいわよ」
「――…総指揮官」
「なぁに?」
「…副指揮官と、その…恋人なのか?」
俺が突飛なことを言ったみたいで、ノワールは笑った。
「天パに興味ないわ」
「………」
「あの子はずっと私について来てくれてるから…一番助けられてる"だけ"よ」
「…………」
「あの子にはリコルヌがいるしね♪」
「……………」
その時の気持ちは憧れであり、"聖母"に対する敬愛だったのだろうと思う。
俺だけの心臓を造られ入れられた時、俺にはあいつしかいないと気付いたから…――
「何ニヤニヤしてんのよ、気持ち悪いわね」
手術道具を片付けるフェーを見たら、そんな風に言われた。
「冷てーなぁ。ま、そんなトコが可愛いんだけど」
END
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