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"繊細、ときに。"
――…人工物。
あたしの名前なのかなぁって勘違いしそうなくらい、ずっとそう呼ばれてきた。
具体的に言うと、左の腕と左の脚。
それが"目覚めた"時に動かなくなったから、代わりに義手や義足をつけただけ。
あたしは体の一部を造ってくれた技術者が大好きだった、彼は決して悪い人間じゃなかったと思う。
娘のように可愛がってくれて、あたしが困る時にはいつも傍にいてくれた。
あたしが処分されるまでは…――
「どうして外したの?」
「この手足は、人間が犯した罪の象徴なのよ。これを着け続けるのは貴女も辛いでしょう?」
垢抜けないような素朴なあたしとは対照的な、トップモデルとも争えそうな美女。
彼女は確かに正しいことを言う…やっぱり総指揮官だから。
「…分かってない」
「え?」
「あたしの…あたしの宝物を返して!返してよぉ!」
無我夢中で手を伸ばしたら、隣に座っていた天使の技術者が怯えて部屋から逃げ出した。
あたしは…人間はおろか、繊細な天使達にも馴染めない。
「貴女がこの手足の製作者を慕っていることは知っているわ」
「じゃあ…なんで!」
「殺されたの」
冷たい棘のような言葉…。
「殺された…誰が……?」
「貴女に――天使に近付きすぎたっていう勝手な言いがかりで、これの製作者は……」
彼女には嘘をつく理由もない。
だから信じられた。
「あたしが…自由になったら、お父さんになってくれるって…約束……して………っ!」
「じゃあ、V-13。私と約束しない?」
「……?」
ノワールは笑って、あたしの頬を伝う涙を拭う。
その柔らかい声に包まれて、あたしは生まれて…"目覚めて"初めて、胸の奥が暖かくなる感覚に包まれた。
「私がお母さんになるわ。ここに住む天使達は皆、貴女の兄弟よ。ずっと変わらない"家族"…そう約束するわ」
「……っ!」
「貴女はこれからフェーよ。"妖精"って素敵じゃない?」
「さすがはフェーね」
機械を造ることも、医者のように診察や手術をすることも、あたしにとっては簡単な仕事。
資料作りや会計も、簡単すぎて笑えてくる。
他に誰もできない訳じゃないけど、ノワールはいつも大袈裟に誉めた。
「この団体も、フェーがいないと成り立たないわね」
「よく言うわ」
「本当よ。頼りにしてるんだからね、私の可愛い妖精ちゃん♪」
「…今更でしょ、ノワール」
END
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