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"花嫁と盟友。"
私には見えるものと見えないものがある。
"目覚めた"…いや、ヒトから天使に成った時から、私の左目は暗闇しか映さない――隻眼という身だ。
人間が犯した罪…私の無き紅色の左目はその象徴だった…――
「怪我…少しはよくなった?」
医務室のベッドに入っている私は、酸素マスクを外さないで右目元だけで笑う。
彼女は複雑な表情で曖昧に微笑むと、ギブスで固定された上に包帯で巻かれた私の手を握った。
「…ソルシエール」
柔らかい声音で私の名を呟き、彼女はそのまま俯いて黙り込んだ。
私は酸素マスクを外す。
「どうかしましたか?」
「……救えなかったの。生き残ったのは貴方だけよ」
研究所の警備員…軍人に近い彼らと真っ向から戦うはめになった私達は、あらゆる弾丸や光線をかいくぐって帰還した。
私は、大きな艦が余る僅かな人数の団員の大半と共に任務へ出たが、意識まで無事に戻ったのは私だけだった…――
「…すみません」
「どうして貴方が謝るの」
「私は…気が付いたら仲間の下敷きになっていて…何も出来なかったから……」
起き上がった私がその時のことを詳細に語ると、彼女は首を左右に振った。
「もう言わないで」
伸ばされた彼女の細い腕が、私の体を抱きしめる。
「――…貴方が生きていてくれて、本当に……」
私と幾歳も変わらないだろう、保護団体の"聖母"は、震えながら呟いた。
「もう二度と、こんな悲しいことは起こさないわ…!」
「……はい」
モニターと手元の紙束を代わる代わる見る彼女の横顔は幼さをなくした。
今や美しい金髪も長く伸びて、誰もが羨むような"大人の女性"だ。
いつも疲れていて悲しそうな貌ばかり見せていた"聖母"は、あれから多くの天使を守ることで、ずいぶん変わった。
「――…ね、ソルシエール」
「はい、ノワール?」
私達しかいない夜のブリッジには驚くほど響く彼女の声。
「仕事中に見とれてるのは私かしら?それとも頭の中のリコルヌ?」
「ふふ…急に何ですか」
「また資料の数が足りないわよ!?一体どういうこと!?」
「それはデューが提出しないからであって、断じて私の責任では…!」
「しっかりせかしなさい、貴方は副指揮官でしょ!」
私は副指揮官であり、生き残ることのできた唯一の"黒の花嫁"の盟友ですから、守りたいのです…天使の未来と、彼女の平穏を…――
END
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