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"魔術師の魔法で。"
私は魔法にかかったのです。
貴方の妖艶な紅色の瞳が私を見つめるたび、私の胸は恋しくて愛しくて高鳴る…――
冷たい空気が張り詰める"牢獄"のような"個室"。
私はそこの一室に独り閉じ込められて、何もかもどうでもいいと思いながら生きていた。
ある日、毎日変わらない静寂を裂き、とうとう彼は現れた。
「I-22、迎えにきました」
「むかえ?貴方は…?」
「"魔術師"です」
後々に、"魔術師"とは彼の名"ソルシエール"の意味なのだと知った。
「貴女の名前はリコルヌよ」
「リ……?」
「この世のものではない程に美しい"一角獣"のこと。貴女にぴったりでしょう?」
ノワールと呼ばれる総指揮官はにこりと笑うと、会議室の戸口脇に立ったままの彼を手招いた。
「今はあまり人員がいないの…――前の戦いで多くの仲間を喪ったばかりでね」
「………」
「ソルシエール、リコルヌの事は貴方に任せるわ。面倒みてあげて」
「はい」
「ここが分からないんですが…」
「今日のお昼は一緒に食べませんか?」
「ティータイムは私と!」
「原稿の確認をお願いしますっ」
長く団体にいて信頼も厚い彼は、いつも部下…とくに女性団員に取り巻かれている。
彼女達は仕事の都合の場合と、単に彼の甘いマスクや紳士的な対応に酔っている場合があって、大概は後者だ。
私は彼に近付きたいと思っても、他の女性団員のような明るさも派手さも無く内向的で、いつも離れた所から見守るだけだった。
「声、かけないの?」
「えっ?」
背後から声をかけた主を振り返ると、ノワールが微笑みながら立っていた。
「天使の未来は見えるのに、自分の恋愛占いはできないの?予言者さん」
「――…ソルシエールは、皆に優しいですから」
「だから?」
「その優しさは、天使に向けられたものです。誰か一人ではなく…――」
私が辛辣に言うと、ノワールは隠しもせずに笑う。
「何故笑うのですか!」
「意外だな~って」
「え?」
「あの彼を見てそう言うのね。貴女、鈍感?」
ノワールが指差す方を見ると、女性団員達をかわして此方へ駆けてくるソルシエールがいた。
「リコルヌ、行きましょう!」
「!?」
「見せたいものがあります!中庭へ!」
植えてくれた沢山の薔薇は、いつの間にか枯れて無くなってしまったけれど、貴方への思いは咲き続けます…――これからも。
END
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