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『ホントにキレイ…』
うっとりと花を見上げる大澄は前よりもっと大人びて見えた。
三つ編みじゃないからか?
「あの、さ…」
何を話せばいいのか分からず曖昧に口を開く。
ゆっくりと振り返り、ふわっと笑う彼女はまるで生きてるみたいに見えた。
『やりたい事、たくさんあったの』
明るく言う大澄は見たこともないくらい悲しい顔をしてた。
『いっぱい勉強して、学校の先生になりたかった。国語の先生よ。あとお母さんとあったかいとこに旅行に行く約束もしてた。』
「ごめん!あの時俺が…」
言いかけた途端涙が出そうになって、顔を覆った。
『和田君…泣いてるの?』
「うるせぇ!泣いてねぇ!」
そう?と言いたげに除き込んだ彼女に思いっきり背を向けた。
『入学式の日ね、この木の下で和田君私に言ったのよ』
入学式?
『小せぇから妖精かと思った』
「俺が?そんな事言った?」
俺…イタイ子供だったのか。
『自分も小さいクセにね』
「うるせぇよ」
クスクス笑って大澄は続ける。
『桜の花びらがぶわぁって舞ってて、あの時からこの木は私の一番の思い出なの。小せぇから妖精かと思った…』
覚えてないよね、と呟いた大澄が淋しそうで覚えてない自分に腹がたった。
突然、彼女は泣き出した。
『もっと生きてたかった。和田君ともっと仲良くなりたかった。忘れられるのが、怖い。過去になるのが怖いよ』
そう言って泣きじゃくる彼女をとっさに抱き締めていた。
泣きそうな自分を押さえ込んでしっかりと。
「俺は忘れない」
抱き締める大澄には温度が感じられなかった。
「俺は忘れないから。だからお前も忘れんなよ」
ふわっと微笑んで彼女は言った。
『今度こそ忘れないでね』
そう言って俺の腕から消えた。
強い風に、桜の花びらが舞う。
「妖精みたいだ…」
目を閉じると涙が溢れた。
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