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「和田先生っ!」
「また桜の君の事思い出してんの?」
笑いながら駆け寄ってくるあの頃自分と同じ歳の生徒達。
「悪いかよ」
開き直る自分はまだまだ子供だな、と苦笑する。
「先生、昨日の古文のテスト難しすぎだし!」
「うるせぇよ。勉強が足りねぇんだよ。雑念を捨てて勉学に勤しめ。俺のようにな」
ふんぞり反ってタバコをふかして見せた。
「自分だってバカなクセに」
「チビ!サル!」
「コノヤロ!さっさと教室戻れ!あとチビは余計だ!」
逃げるように走り去る生徒の背中を見て、彼女の後ろ姿を思い出した。
あの小さい背中は大人になるとちょっとは色っぽくなったりしたんだろうか。
想像して、笑う。
そして少し胸が痛んだ
思い出は忘れたくても忘れられない。
確かに俺はそう言った。
でも大切にすればする程薄れていってしまう。
今年も鮮やかな花を咲かせる緋寒桜。
だから今年も約束するんだ。
「忘れないよ」
呟いて背を向けた。
『ありがとう、和田君』
あの柔らかい声が聞こえた気がして振り返った。
でもそこにはハラハラと舞い落ちる桜の花びらだけで、それが悲しかった。
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