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桜舞い散る校庭で
「和田先生、さよ~なら~」
「おう!気ぃ付けて帰れよ」
部活を終えた生徒を見送り、自分も胴着を片付ける。
唯一の取り柄と言える剣道を学校でも顧問として教えている。
しかし体力に衰えを感じる今日この頃。
切ないぜ。
俺が教師になって、ここへ帰って来て随分時間が過ぎた。
いい歳になり、幼い頃思っていた程大人にはなりきれていない俺だけど、来月結婚する事になった。
俺には勿体無いくらい、出来た女だ。
いつまでも引きずったまま生きては行けない。
だけどあいつに会いたくなったら俺は気付くとここにいる。
今年もまた待ちわびたように狂い咲く緋寒桜は、相変わらず皮肉な程綺麗だ。
あいつの事を忘れた事なんてなかった。
いつも心の片隅であいつはふわっと笑っている。
今の彼女を愛してない訳じゃないけど、俺の心には今もあいつがいる。
「俺…どうしたらいいと思う?」
答えが返って来る筈もない問いは冷たい風にさらわれて消えていく。
仕方なく歩き出すと、風に吹かれるまま舞い散る花びらに混じり、クスクス笑う声が聞こえた。
この声を俺はよく知ってる。
慌てて振り返ると、信じられない事に木の影からひょこっと顔を覗かせるあいつがいた。
あの頃のまま、あの時と同じように、あいつがふわっと笑う。
「お、おすみ…?」
呼びかけると彼女はゆっくり頷いた。
小さな大澄はてくてくと俺の側まで歩いて来ると、不思議そうに見上げてくる。
『和田君、大きくなったんだね』
「あのなぁ、あれから何年たったと思ってんだよ」
久しぶりの再会だというのに、すっとぼけた第一声に思わずつっこんでしまった。
クスクス笑う大澄のこの感じ、懐かしい。
『今年も綺麗に咲いたね』
舞う花びらと一緒に楽しそうにくるくる回るその姿は、正に妖精みたいだ。
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