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『僕、小夜を殺そうとしてたんだ』 突飛もない事を言われて心臓が縮んだ。 『小夜が初めて僕の意識に入り込んできたあの日、このまま連れて行きたくなったんだ』 初めて出会った日、私はとにかく眠くて夢の中でも眠くて仕方なかった。 『夢じゃないんだよ』 私を見上げて遥が言う。 『あれは僕の意識。心の中。そして、天国への入口』 私は眠るだけで三途の川まで辿り着けるのか、と自分で感心してしまった。 いや、それよりも眠る事で人の心に入り込むなんて…そんな事あるのだろうか? 『僕が呼んだんだ。小夜、毎日つまらなさそうにしてたし、周りに興味もなかったでしょ?』 そう言って私の手を取った。 『だから、このまま一緒に行こうかと思ったんだ』 眠りながら死ねるなんて本望だ、不謹慎にそんな事を思った。 『僕ね、小夜の事知ってたんだよ。小夜は覚えてないかもしれないけど』 いつの間にか大きくなった遥を見上げて記憶を探る。 『私達、どこかであった?』 やっぱりね、とクスクス笑う遥だけどその姿が淋しそうに見えた。 『あの日の小夜もつまんなそうにしてた』 それは2年前の事だった。 学校行くのがダルくてバス停でぼんやりしていた時、中学生くらいの男の子に声をかけられた。 「何してんの?」 全く気付かない私はバス停のベンチで居眠りをしていた。 カックン、とバランスを崩した私を男の子が支えてくれて、そのまま膝枕をしてもらっていた。 1日中、ずっと。 目が覚めた私は快眠で、男の子と目が合うと無表情に言った。 「ありがと。おかげでゆっくり眠れたわ」 私は何事もなかったかのように帰って行った。 『面白い人だなぁって思ったら、それから気になって毎日バス停に通ったんだ』 思い出すように目を閉じてため息をついた。 『小夜はさ、どこ見てるか分かんない表情ですごくつまんなそうにしてた』 私はいつからそんなにめんどくさがりで、無気力だったんだろう。 『ごめん、全く覚えてないわ』 笑いながら遥は言う。 『だろうね。でもあの日から僕、小夜の事好きでたまらなくなったんだ』 突然の告白に心が揺れた。
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