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『遥は、誰なの?』
気になっていた事が次々とクリアになっていく。
『僕の名前は小林遥。北中の3年、だったかな…ずっと寝てるから分からないけど』
『北中ってすぐ近くの中学校じゃない』
『だから知ってたんだよ。東高の制服。それに…』
ふいに空から声が降ってくる。
「遥!遥しっかりして!死んじゃ嫌だよ!」
それはいつも聞いてた底抜けに明るい声ではなく、悲痛な叫び声だった。
彼女も確か、小林だった。
『まさか、里沙の?』
『うん、弟だよ』
言われるまで気づかなかったけれど…そっくりだった。
自分の、周囲への感心のなさに改めて自己嫌悪。
『姉ちゃんは俺が小夜を好きな事知ってたんだ。まぁ、バレたって言う方が正しいかな』
照れたように髪をかきあげて私を見た。
『だから僕が死んでしまう前に会わせてくれようとしてたみたい』
だから里沙は私に付きまとってたんだ。
私じゃなきゃ意味がないって、こういう事だったんだ。
『ここで小夜と会えるようになって楽しくて、ずっと一緒にいたくて…でも僕は死んでしまうかもしれない。そう思うと淋しくて』
ふいに悲しそうに目を伏せた。
『でも気持ちは押さえられなくていつの間にかあんな事してた…ごめんね』
私を連れて行こうとした事を言ってるのか、申し訳なさそうに私を見た。
『僕の声に気付いてくれてありがとう、小夜』
そして悲しい笑顔を向ける。
『もう邪魔しないからね』
遥の体が透き通っていく。
『ずっと好きだったよ、小夜。最後に言えて、よかった』
遥は泣いているのだろうか。
『会えて本当に嬉しかった。ここで話したり…楽しかった』
『待って!』
とっさに腕を掴み引き止める。
『死ぬの?』
『うん、多分』
遥の腕は温かい。
ちゃんと触れる。
目が燃えるように熱い。
『ふざけんじゃないわよ!散々人の気持ち振り回しといて用が済んだらサヨナラ?バカにしないで!』
私は泣いていた。
『そろそろ行かなきゃ。小夜、早く戻らないと。帰れなくなるよ』
『話を聞きなさい!』
胸ぐらを掴んで無理矢理キスをした。
『覚えときなさいよ。楽しい事なんてこれからいくらでもあるんだからね』
涙声を隠すために大きな声で怒鳴る。
遥の顔は真っ赤になっていた。
『ちゃんと帰ってきなさいよ?帰って来たら、続きを教えてあげるわ』
そう言ってもう一度、長いキスをした。
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