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雨の日はいつもに増して眠くなる。
屋根に落ちる雨音のリズムに湿気を含んだ空気…気持ちいい。
冷たいシーツの上いつまでも眠り続けたい。
しとしと降る雨を子守唄に瞼を閉じた。
甘い香りに誘われて目を開くと、綺麗な花畑が広がっていた。
さらさらと静かに流れる小川。
『天国への入口?』
呆気にとられて呟いた時、どこからか笑い声が聞こえてきた。
『天国か、それはいいね』
クスクス笑う肩は細く華奢で、柔らかそうな茶色い髪は光に反射してキラキラと揺れる。
白い肌は透き通って、この世の者とは思えない神秘的な姿だった。
『あなたは…天使?』
そう言うとその男の子はお腹を抱えて可笑しそうに笑う。
『まさか!僕は人間だよ。君面白いこと言うんだね』
確かに彼には羽が生えていない。
『あなた、誰?』
すくっと立ち上がり、お尻をパンパンと叩いて笑顔を向ける男の子。
『僕は遥。君は?』
『小夜』
『鞘?』
『違う。小さい夜で、サヤ』
ふぅん、と大して気にならないといった感じで遥は言う。
彼は座り込んで花を摘み始めた。
この男の子が何者かとか、ここがどこかとか、今の私には大した問題ではない。
とにかく私は眠りたい。
歩き出す私に遥が声をかけた。
『一緒に遊ぼうよ』
『何で私が子守りなんかしなきゃいけないのよ』
またクスクスと笑う声にイラッとして、振り向きもせずにずんずん歩いた。
『またね、小夜』
目が覚めると外は薄暗く、雨の気配がしっかりと感じられた。
おかしな夢を見た…体がだるい。
階段を下りてリビングへ行くと鬼の形相の母さんがいた。
「小夜!あなた学校どうしたの?」
「え?今何時?」
虚ろな目で尋ねた私に母さんは大きなため息をついた。
「あ、母さん」
「何よ」
「天国ってどんなとこ?」
純粋な質問に母さんの怒りは頂点に達したらしい。
「さっさと学校行きなさい!」
私の母親は何でこんなに怒りっぽいんだろう。
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