1/1
17人が本棚に入れています
本棚に追加
/25ページ

雨の日はいつもに増して眠くなる。 屋根に落ちる雨音のリズムに湿気を含んだ空気…気持ちいい。 冷たいシーツの上いつまでも眠り続けたい。 しとしと降る雨を子守唄に瞼を閉じた。 甘い香りに誘われて目を開くと、綺麗な花畑が広がっていた。 さらさらと静かに流れる小川。 『天国への入口?』 呆気にとられて呟いた時、どこからか笑い声が聞こえてきた。 『天国か、それはいいね』 クスクス笑う肩は細く華奢で、柔らかそうな茶色い髪は光に反射してキラキラと揺れる。 白い肌は透き通って、この世の者とは思えない神秘的な姿だった。 『あなたは…天使?』 そう言うとその男の子はお腹を抱えて可笑しそうに笑う。 『まさか!僕は人間だよ。君面白いこと言うんだね』 確かに彼には羽が生えていない。 『あなた、誰?』 すくっと立ち上がり、お尻をパンパンと叩いて笑顔を向ける男の子。 『僕は遥。君は?』 『小夜』 『鞘?』 『違う。小さい夜で、サヤ』 ふぅん、と大して気にならないといった感じで遥は言う。 彼は座り込んで花を摘み始めた。 この男の子が何者かとか、ここがどこかとか、今の私には大した問題ではない。 とにかく私は眠りたい。 歩き出す私に遥が声をかけた。 『一緒に遊ぼうよ』 『何で私が子守りなんかしなきゃいけないのよ』 またクスクスと笑う声にイラッとして、振り向きもせずにずんずん歩いた。 『またね、小夜』 目が覚めると外は薄暗く、雨の気配がしっかりと感じられた。 おかしな夢を見た…体がだるい。 階段を下りてリビングへ行くと鬼の形相の母さんがいた。 「小夜!あなた学校どうしたの?」 「え?今何時?」 虚ろな目で尋ねた私に母さんは大きなため息をついた。 「あ、母さん」 「何よ」 「天国ってどんなとこ?」 純粋な質問に母さんの怒りは頂点に達したらしい。 「さっさと学校行きなさい!」 私の母親は何でこんなに怒りっぽいんだろう。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!