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1 疲れた時は肉を食え
終業のチャイムが鳴り響き、今日も一日が終わった。
仕事を終えた作業員達がぞろぞろ連なり工場を後にする。
この工場で働くようになって7年、それなりに責任のある立場になり、がむしゃらに働いている。
女で現場の仕事をしてるのは同期の中でもあたしだけ。
一日中座ってパソコンとにらめっこなんてあたしには耐えられない。
「甲斐(カイ)先輩!ご飯行きません?」
小走りに駆け寄ってくる後輩の千鶴とはもう3年の付き合いになる。
仕事もできるしよく気が利く、手塩にかけて育てた可愛い後輩。
「そうねぇ、行くか!」
仕事が終わって疲れた体を癒すには好きな物を好きなだけ食べるっきゃない。
私の主食は肉だ。
焼肉+ビールが勝利への近道だと信じているから。
こんなあたしの事を人は“肉食系女子”と呼ぶ。
人を獣みたいに…失礼しちゃうわ。
「あ、あの子も誘いましょうよ。真尋君!」
その名前にあたしの耳がピクッと反応する。
神崎真尋(カンザキマヒロ)
色白でひょろっとしてて、ふにゃっと笑う…何だか頼りない男。
自分でお弁当詰めて来るし、いつだったか手作りのクッキーを貰った事もある。
それが美味しかったからまた憎たらしい。
笑顔に癒される!とか優しくて素敵!なんて女の子達はキャーキャー言ってるけど、あたしはあいつが好きではない。
そんな奴の事を人は“草食系男子”と呼ぶ。
何よ、男のクセに小動物気取りやがって。
何で女のあたしが肉食獣で男のあいつが草食動物なのよ。
「真尋君って見てると癒されますよね~。細いし華奢だし、笑顔が可愛いし。ね?先輩?」
頭痛を覚えながらもあたしは当たり障りなく曖昧に笑うだけにしておいた。
「あ、いたいた!真尋くーん!」
「あぁ、千鶴さん。お疲れ様~」
にこにこ(あたしにはへらへらと見えるが)笑いながらあたし達を振り返った。
「甲斐さん、お疲れ様です」
…出たな小動物。
「今から甲斐先輩と焼肉行くんだけど、真尋君も行こうよ」
神崎と話す千鶴はとても嬉しそうだ。
この男の事が好きなんだろうか?
だとしたら趣味が悪すぎる。
「いいね、うん。行くよ」
別に呼んでませんけど?と心の中で悪態をついた。
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