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「暇ではありません。人間が魔大陸と呼ぶこの地には、古の力によって護られている都市が幾つもあります。そこには人間共が平然と暮らし、我ら魔族ですら苦戦しているのです」
男はティリシアを見つめると「そろそろ我らも動かなければなりません」と言った。
「戦いは好きじゃないから任せるわ」
「そのような事を言われますな。あなたは魔王の血を引く者です。そのあなたが我らの前に姿を出さなければ、士気は上がりません」
男はティリシアに深々と頭を下げた。
決断をしてくれと、男なりの意思表示だった。
「聞いて無かった?」
ティリシアは機嫌が悪くなっていく。
気質が変わり、ティリシアの長い髪がゆらゆらと揺れ始めていた。
「ティリシア様はこのままで良いと?」
「良くは無いでしょ?」
ティリシアの言葉に沈黙が走る。
そして男は黙ったまま退出していく。
「好きでお父様の娘じゃないのよ」
見えなくなった男の姿に、ティリシアはそっと呟いていた。
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