裏切り

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「早く連れて行け。見張りは怠るな」 エランはそう吐き捨てると、その場から去って行く。 残された兵士たちは、お互いの顔を見合っていた。 これほど感情を出したエランを見た事が無かったのだ。 「急ごう」 1人の兵士が倒れているアキュアに近付く。 頬は腫れ上がり、口の中を切ったのか流血していた。 「大丈夫か?」 近付いた兵士は、自分のマントをアキュアに被せるとそのまま抱き上げる。 「どうするんだ?」 「命令に従わなければ、こっちが殺される」 重苦しくなった雰囲気を打ち消すように、兵士たちは歩き出した。 「女を連れて来た。湯浴みを頼む」 浴場の前に来た兵士たちは、頭を下げていた女の奴隷にアキュアを預けた。 「我々はここで待つ。湯浴みが終わったら教えてくれ」 女奴隷は何も言わない。 言わないのではなく、言えないのだ。 話す事を許されない者は喉を切られていた。 この奴隷も、喉元に切られた痕が残っていたのだ。 「話せないのも不敏だな」 誰に言うでも無く呟く言葉に、その奴隷は悲しい顔をしていた。
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