裏切り

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アキュアはここまでかと、体の力を抜いた。 いや、もはや力が入らないのだ。 少量とはいえ薬を吸い込んだのがいけなかった。 羽織りが肌とこすれるだけで、体がピクンッと反応してしまう。 何とか腕と足の痛みに集中する事で耐えているに過ぎないのだ。 だが問題もある。 深い傷の為に血を流しすぎたのだ。 「アキュア殿、ここは一度---」 仲間になった兵がアキュアに近付く。 「お前は覚悟が出来ているか?」 「覚悟ですか?」 「味方だった者を倒さなければ進めないんだぞ」 ついに膝を着いたアキュアは、エランから視線を外さない。 いつ、飛び込んで来るのか分からないのだ。 「あなたに味方すると決めた時から覚悟は出来ています」 兵はアキュアの肩に手を回し、立ち上がらせようとした。 「んっ……あっ……ぅ……」 場違いな甘い声を出すアキュア。 肩で息をし、膝が折れていく。 体が小刻みに震え、うつろになった目が周囲を惑わした。 美女が悶える姿は妖艶で、兵士たちの視線を釘付けにしていた。
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