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男は船に揺られていた。
その男の顔は満足げで、ひと仕事終わった達成感に包まれている。
そして、ここには居ない自分の主の顔を思い浮かべた。
「これであの小娘も動く事になるだろう」
薄気味悪い笑みを浮かべ、足元に転がる男を見る。
腹から赤黒い液体が固まり始めているが、明らかに致命傷だった。
「この男はもう少し使えると思ったが、所詮は人間か……」
既に息絶えているその男を蹴り上げた。
「オデッサ・ガロルの代わりを用意しなければな」
男はオデッサを持ち上げると、そのまま海へ投げ捨てた。
船は真っ直ぐ南下している。
間も無く魔大陸の領海に入るのだ。
そんな神聖な場所に、薄汚い男を入れる事は無い。
勝手に沈み、魚たちの餌になってしまえばいいのだ。
「さて、我が主はどんな顔をするか……。ティリシア・クラウディーナよ、種は蒔きましたぞ」
男は甲高い笑い声を上げた。
この男の主ティリシア・クラウディーナ。
魔王の娘にして最強の魔力を持つ者。
その小娘さえ動けば、自分の思い描く世界になる筈だった。
「もうすぐだ」
魔大陸が見え始め、男は真剣な顔つきになっていた。
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