導き

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姉さんは優しかった。 いつだって、俺には涙を見せなかった。 いつだって、俺の健康を一番に心配してくれた。 自分のことを棚にあげて・・・ 俺が外で遊んで帰ってきたとき。 いつだって俺は泥だらけで帰った。傷だらけだった。 そのたびに姉さんは怒るわけでも何でもなく。 「あらあら。また怪我したの?こっちへおいで。姉さんが直してあげる。」 と、いつも言うだけだった。 洗濯だって、俺がやるよと言うと 「いいのよ。姉さんにお任せ。雄樹は思いっきり外で遊んでおいで。怪我したら、姉さんがまた治してあげるからね。」 と笑顔で言うのだった。 姉さんは、優しくて、きれいで。 だけどある時、その幸せな時間は崩れ去っていく。 ある瞬間をきっかけにして。 姉さんが夕方から、しきりに足を押さえだしていた。 「痛い痛い痛い痛い痛い・・・・・うぅ・・・・」 姉さんの顔は汗だらけで、こんな苦しそうな姉さん初めて見た。 「姉さん。しっかり。・・・先生、絶対助けてください。」 俺は涙を流しながら先生に何度も何度もお願いした。 先生は、大丈夫だから、といってある部屋に入っていった。 看板には「手術室」と書いてあった。 しばらくしてから姉さんは出てきた。 よく見ると、姉さんの両足がなかった。 「姉さん、両足がないよ。どうしたの?」 「なんでもないわよ。外で遊んできなさい。元気に遊んでおいで。」 ・・・・なんでもないわけがない。 俺はなんとなくわかってた。 姉さんはもう助からない。 心の準備をしようと、思い続けた。 ある日、姉さんは今度はしきりに腕が痛いと訴え続けた。 先生はまたしてもあの部屋へ姉さんを連れて行った。 ・・・出てきたときは姉さんは手さえもなくなっていた。 生きているだけで動けない。 一人では何も出来ない。 姉さんは日に日にすすり泣きが多くなっていた。 俺が見ているところでは涙を見せない。 だが夜とかに、ふと目がさめると、姉さんの鳴き声。 かわいそうだった。 あれだけいろいろやっても、助からないなんて。 そしていよいよ、姉さんとのお別れの日はやってきた。
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