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それに、と高杉の唇が耳に寄せられ。ふわりと奴の煙草の匂いが強く香る。
「俺は只の友人に会いに来たんじゃねェ...」
──恋人に逢いに来たんだ
その言葉に、一気に顔に熱が集中したのがわかって。恥ずかしさに顔を逸らす。
「...ククク..銀時ィ...。今日は良い月夜だなァ...」
「....つき...?」
そっと横目で見ると、高杉が窓枠に寄り掛かって空を見上げていて。
月の光が煙草をくゆらせる高杉を照らし。
憎らしい位にアイツには、こういう雰囲気が似合うなと、少し見惚れてしまった。
「酒を持って来たんだ。..月見酒と洒落込もうじゃねぇか」
ニヤリと笑ってこちらを見、酒を取り出して歩いて来る。
いつもは狂気を孕んだその瞳が、今は優し気に細められていて。
...昔の高杉を、思い出した。
「..そうだな...。偶には、昔話でもして、夜を明かそうか」
いつも身勝手で気紛れな蝶を、今日此処に呼び寄せた月の光に感謝して。
俺は杯を傾けた。
──月読みの光に来ませ あしひきの
──山きへなりて 遠からなくに
(月の光の中を来てくださいな
山を隔てて遠くというわけではないのだから)
了
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