329人が本棚に入れています
本棚に追加
昔々、あるところに。
死を招く鬼が生まれたそうな。
屍の骸のような銀の髪、血を写したような緋色の瞳──
はてさて、人の世に生まれし哀れな童は、今いずこ?
「屍を喰らう鬼、ですか?」
会合の帰りに寄った茶屋の主人の話に、眉を顰める。
「向こうのお山の方でね。屍溢れる地には、数多の烏を従えし白き鬼が現れ、横たわる屍の死肉を歯み、血を啜って笑うのだと。..怖い話があるもんだねぇ...」
本当ですね、と先程とは一転して穏やかに微笑んで茶を飲み干し、お金を置いて立ち上がった。
「あぁ、お侍さん!..鬼退治なんぞ、考えんでくだせぇよ」
「...なぜです?」
淡い色彩の、長く美しい髪を靡かせ、侍は首を傾げる。
「いやね、その鬼に会った者は、未だ誰一人として帰って来た者はいねぇって話だ」
悪いこたぁ言わねぇ、無益に命を危険に晒すもんじゃあねぇよ──
「此処、ですか..鬼の住む山というのは...」
鬱蒼と木の茂る山。
そこは確かに、異様な雰囲気を纏っていて。
思わず男は息を飲んだ。
「成る程確かに..何やら化けて出そうですねぇ...」
腰の刀に軽く手を添え、息を吐くと、彼は山へ登って行った。
最初のコメントを投稿しよう!