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「では..姓は吉田、名は銀時。...名乗ってくれますか?」
「吉田..銀..時...」
再度頷いた銀時に微笑んで、また頭を撫でる。
「...私の私塾へ行きましょうか、銀時」
「しじゅく?」
「はい。勉強をするところです。...まだ始めたばかりですが、本当に良い子達ばかりですよ」
人の多いところだということを感じ取り、体を固くするが。松陽の柔らかい笑みを見て渋々頷いたのを見、松陽はしゃがみ込んだまま、銀時に背を向ける。
「私の私塾までは、少し距離があります。私の背に乗ってください」
「ぇ..乗る..って...」
背負われたこともないのだと予想はしていた松陽は、少し哀し気に顔を歪めるも、腕の位置などを伝えた。
「..こう...?」
「そう。...さて..」
よっこらせ、と、およそ彼の年齢には似つかわしくない声をあげ、立ち上がる。
「っうわ...っ!」
急に高くなった視界。
木に登るのとはまた違う感覚に、目を白黒させ、慌ててしがみつく。
「それでは、行きましょうか」
銀時は、歩き出した松陽の背で、落とされはしないかと暫く警戒していたが、やがてゆっくりと体の強張りを解いていった。
会って間もなき、ましてや鬼の子と呼ばれた子に名を与え、父と名乗り出たその男の背は、少年の緋色の瞳を柔らかく細めさせるのに充分なものだった。
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