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そんな会話を交わしながら、アニスは視線を先程貰って来た地図へと移す。
(お兄ちゃんの事は後回し。まずは、この仕事を成功させないと……!)
その表情には、決意の色がありありと滲み出ていた。
アニスがルナと待ち合わせた喫茶店の近くには、広大な芝生を持つ公園が広がっている。
時刻は日が沈んで間もないが、普段はジョギングやサイクリングをする人がちらほらと見受けられるこの公園にも今日は既に人の姿は無い。
その芝生の片隅に設えられたベンチに一人の男が座っていた。
短く刈った茶髪にサングラスで目元を隠した長身の男だ。
その男は、携帯電話で誰かと話している様だ。
「俺だ。今日2号機と5号機に遭遇した。一応あんたからの依頼は1号機の奪取だから取り敢えずその場は見逃したが、お望みならついでに……は? 良いのか? だが……」
その後も男はしばらく相手と話していたが、やがて電話を切ると乱暴にポケットに突っ込む。
それから違うポケットを探って煙草とライターを取り出すと、火をつけてゆっくりと煙を肺の中に満たして行く。
「ふぅーーーっ。取り敢えず1号機だけで良いから余計な事はするな、か。依頼主にそう言われちゃ、こっちとしては従うしかねぇな~」
軽く肩を竦めると、男は煙草を揉み消して立ち上がる。
「で、1号機のあると思われる場所があの研究所跡地とはね」
ぼやく様に言うと、その男は公園を後にしたのだった……。
翌日――
「ここ?」
「みたい……ね」
運転席のエリシアの問いに、アニスは地図を見ながら答える。
一応車を邪魔にならない場所に停めると、二人はひしゃげた上に錆びて動かなくなった門を乗り越えて敷地内に足を踏み入れる。
「ひぇ~、雰囲気あるわねぇ」
改めて眼前の建物を見ると、半年間放置されて来た為に壁や窓は土埃で汚れ、地面も所々ひび割れたコンクリートの隙間から雑草が生えて来ていた。
「半年間も人の出入りが無かったと言っても、流石にひどい荒れ様ね」
早速建物に近付いて、ヒビの入った壁を触れたり軽く小突いたりしながら言うエリシア。
「そうね。あっ」
アニスも入り口の自動ドアを軽く叩いてみると、所々に入っていたヒビが一気に広がって行く。
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