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リアはおぼつかない足取りで近くのパソコンまで歩いて行くと、倒れ込む様に椅子に座ってパソコンの電源を入れる。
ヴン、という電子音の後に画面に大きなメーカーのロゴが映し出され、パソコンが立ち上がる。
「良かった……電力はストップしてない。これなら何とかなるわ」
キーボードに向かい、まずはこの研究所のウェブサイトにアクセスし、自身のIDを入力する。
その後、ポケットから一枚のディスクを取り出すとそれをセットし、更に奥……研究所のメインコンピュータに直接アクセスを開始する。
本来ならば禁止されている行為だが、状況が状況だ。
迷ってはいられない。
事は一刻を争うのだ。
「パスワードは、変更されてない。あれからあまり時間は経って無いのか……。じゃあこのソフトでシステムを書き換えないと……」
リアは今開いているのとは別にもう一つウィンドウを開くと、ディスクをインストールし始める。
インストールはすぐに終了し、リアは続いてディスクのファイルを開き、そのデータの一部をメインコンピュータに書き写す。
すると、メインコンピュータのデータが次々に変化していき、ディスクフォルダからディスクが排出された瞬間、パソコンがダウンしてしまう。
今メインコンピュータに書き写したプログラムは、ファイアウォールをすり抜けて直接相手方のコンピュータのプログラムを変質させる、一種のコンピュータウイルスである。
「ふぅ……これで、多分シンシアのカプセルのパスワードも変更されたはず……。後は、あの部屋の鍵を隠さない、と……」
そこで、不意に全身から力が抜けて床の上に倒れ込む。
状況は、理解していた。
時間切れだ。
「シン……シア……せめて、あなた……は、幸せに……なって……ね」
かくりと、彼女の全身から力が抜ける。
その表情は、最後に最愛の娘を想う母親の様に穏やかだった。
リア・ウィンスレット……アンドロイド研究の第一人者の死は、すぐに世界中に知られる事となるが、その死因は「実験中の事故」として処理された――
そして、その彼女の死から数ヶ月後……
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