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第一話
アニスが喫茶店に着くと、依頼主は既に店内の奥のテーブルに陣取っていた。
「うわ……」
その席に近付いて、アニスは思わず顔をしかめる。
テーブルの上にはパフェやらアイスやらがこれでもか、というくらいに並べられており、それを一人の少女が幸せそうに頬張っていたのだ。
その少女はアニスに気付くと、ナプキンで口元を拭いながら座る様に促して来た。
「貴女が私達の依頼を引き請けて下さる方ですわね。私はルナと申します」
「あ、あたしはアニスよ」
丁寧にお辞儀されてしまったので、アニスもつい会釈を返す。
「で、早速だけど依頼の内容を聞かせて貰えるかしら」
「そうですわね。私ももったいぶったのは嫌いですので、さっさと話を進めて頂けると助かりますわ」
(うっわ、可愛くない)
とは思いつつも、表情には出さない様に務める。
「依頼というのは、あるコンピュータプログラムを回収して頂きたいのです」
「コンピュータプログラム?」
ルナと名乗った少女は、紅茶を一口含むとちらりとこちらに視線を送る。
「何か、飲みます?」
「いいわよ。お腹、一杯なの」
「そうですか。では、話の続きと参りましょうか」
そう言うと、ルナは紅茶をもう一口飲んでから話し始めた。
「回収して頂きたいのは、これくらいのディスクですわ」
両手で示されたのは、一般的なCD-ROMほどの大きさだった。
「それから」
差し出されたのは、どこかの地図だった。
「これが、そのディスクがあるはずの場所を記した地図です」
「どういうこと?」
「その場所というのが、今は廃墟となった研究施設なのですわ。ですから、そのディスクが残されている可能性は低いものと思われます」
その説明に、アニスは露骨に嫌な表情をする。
「そんな顔をしなくても、もしも目的の物が見つからなくても報酬はきちんとお支払い致しますわ」
「そういう事なら……」
そう言われるとアニスも否とは言えず、結局依頼を引き請ける事にした。
「では、依頼料はこんな所で如何でしょう?」
提案された額は相場よりも若干高い程度だった。
アニスは一つ大きく頷く。
「分かったわ。何とかして探してみる。じゃあね」
後日再びここで落ち合う事にすると、アニスは喫茶店を後にした。
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