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アニスが喫茶店を立ち去ってからしばらくして、テーブルの上のスイーツを完食したルナも喫茶店を後にした。
通りに出ると、一人の少年が彼女に近付いて来る。
「また食べていたのか? 僕達には基本的に食事など必要ないというのに」
「リオンですか。良いでしょう? 人間の作る物はとても美味しいのですから、食べない方が損ですわ」
肩をすくめる少年にそう言うと、ルナは先頭に立って歩き始める。
「しかし良かったのか? 何でも屋なんかに回収を任せて」
「仕方ないですわ。私達が直々に出向くのはリスクが大き過ぎますもの。せめて兄様、姉様達が居て下さればどうにかなるかも知れませんが、私達だけでは心許無いですし」
「体のいい噛ませ犬か。あの女には悪いが、ディスクが手に入るなら僕にも異論はない」
二人はそれ以降無言で歩いていたが、角を曲がった所でルナが男とぶつかってしまう。
「きゃっ!」
「おっと……」
勢いよく男と衝突した反動で路上に尻餅を付いてしまうルナ。
「あなた、一体どこを見てますの!?」
路上に尻餅を付いたまま、ルナは男に文句を言う。
「悪かったな」
だがルナの金色の瞳で睨め付けられても男は眉一つ動かさず、代わりに右手を差し出して来る。
「ふん、いりませんわ。そんな気遣い」
しかしその手を取ろうともせず、自力で立ち上がると黒いフリルがあしらわれた服に付いた土を払い始める。
「嫌われたかな」
「いや、こいつは誰にでも大抵こうなんだ。こちらこそ不注意で迷惑を掛けた」
ポリポリと頬を掻く男にリオンが歩み出ると、頭を下げる。
「いや、良いんだ。とにかくそれだけ元気があればケガも無さそうだし、気を付けな」
すると男は、笑顔で手を振って去って行った。
「ルナ、体は大丈夫か?」
「問題ありませんわ。大体、私は多少の損傷ならすぐに修復出来ますもの」
「その修復機能がイカれたらどうしようも無いだろ。とにかく、もう少し気を付けろ」
その言葉にルナはムスッとして頬を膨らませると、
「……分かりましたわ。次から気を付けます」
「分かればいい。お前はタダでさえデリケートな機体なんだからな」
リオンはそんなルナの銀色の髪に手を添えるとクシャクシャと撫でる。
「止めて下さいな。私は子供ではありませんわ」
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