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ルナの抗議は、少しだけ弛んだ表情と相俟って説得力に乏しかった。
「とにかく、今日の所はもう帰るぞ」
「そうですわね。ねぇ、リオン。お姉様は無事ですわよね?」
すがる様な視線で問うルナに、リオンは数ヶ月前の事を思い返していた。
それはリオンが日本での最終調整を終えて帰国する直前の事だった。
「リオン。君の今回の帰国は取り止めになった」
リオンの調整を担当した本庄助教授(下の名前は忘れてしまったが)によれば、昨日の夜に研究施設が謎の部隊に襲撃されて壊滅、研究資料も殆どが奪われてしまったらしい。
これはつまり、リオンが帰国する理由を失ったという事だ。
「本庄助教授。こちらのホストコンピューターにメッセージが届いています」
「何処からだ?」
助手の報告に助教授は眉をひそめる。
ここのコンピューターのセキュリティは完璧で、外部から無断で通信など出来る筈が無いのだ。
「分かりません。ただ、こちらで預かっている機体を明日正午発のカナダ行きの便で送って欲しい、と。音声メッセージも添付されています」
「再生しろ」
その言葉に、助手はそのファイルの添付データを再生する。
『リオン。事態は把握していますわね? 既に他の機体を送って頂く手筈は整えています。私達で、シンシア姉様を取り返します。その為には、リア女史に預けた私の拡張プログラムが必要ですわ。詳しい話はこちらに着いてから致します。では』
「再生、終了しました」
「ふむ」
助教授は、一つ息を吐くと後ろのリオンを見やる。
「今のは?」
「僕の上の妹にあたるルナです。今話していた内容は、全て事実だと思います」
「なるほど……」
本庄助教授は、しばらく何事か思案している風だったが、やがて椅子から立ち上がると口を開いた。
「すぐにリオンを運び出す。途中まではこのまま、空港から先は貨物として搬送すれば大丈夫だろう」
そう宣言するや、あっという間に搬送の準備を整えてリオンは日本を経った。
それが今年の始めの事だ。
自分を送り出してくれた人達の為にも、必ず成功しなければならない。
「シンシアはきっと無事だ。必ず僕達で助け出そう」
リオンはそう言って隣りを歩くルナの肩を力強く抱き寄せた。
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