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とある小さな街にエルネスト孤児院という孤児院がある。
そこの家主こそ、ルイス・エルネスト。
孤児達の親のような存在であり、同時に教師のような存在でもある。
ルイスは、毎日夕暮れ時になると決まって出掛けて行った。
行き先は皆が知っていた。
誰も賛成していないが、孤児達には反対するだけの力もなかった。
「ルイス、今日も行くの?」
「晩御飯までには帰ります。いい子で待っててくださいね、イーリス。」
ルイスはイーリスという、一番ルイスに懐いているであろう少年の頭を優しく撫で、お決まりの柔らかい微笑みを向けて家を出た。
ルイスの後ろ姿をずっと見送るイーリスの肩に、慣れた風に手が置かれた。
「入ろう。今晩は冷えるから。」
「…うん。」
イーリスは鼻声だった。
イーリスは孤児ではなく、捨て子だからか、ルイスが出掛ける度に見送りに出る。
また捨てられるという思いもあるのだろう。
「大丈夫、ルイスは絶対帰って来るから!ここ以外に帰る場所なんてないだろ?な?」
イーリスは黙って頷いた。
この世話焼きな少年はカイン。
イーリスの兄のような存在で、孤児内で最もイーリスを可愛がる人物。
「…本当に帰ってくるかな…。」
「何言ってんだよ。それより、昨日の話の続き!風呂場のネズミどうなったんだ?」
カインは暗い話題を嫌う。
暗い話題が上がれば、すぐにコミカルな話題を見つけて切り替えようとする。
カインは両親からの虐待に耐えきれず、自分から孤児院へ逃げて来た子だった。
無理にでも笑顔を作る様はただ痛々しいだけであったが、確実にイーリスには希望を与えていた。
こうした傷の舐め合いは、エルネスト孤児院では当たり前だった。
ルイスが毎日出掛けるようになってから…。
深夜1時――――
大丈夫と断言した本人が、ルイスの帰りが遅くて眠れていなかった。
同じベッドを使っているイーリスが寝ぼけて擦り寄ってきた。
イーリスの頭を撫でてやり、目を擦ってもう一度時計を見る。
何度見ても同じ。
「…大丈夫…ルイスはきっと帰ってくる…。」
一人呟くと、イーリスの肩まで布団を掛けて、ゆっくり目を閉じた。
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