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もし、world of junkが潰されてしまえば占領区の区民はおろか、休戦地区協定すら危うい。
休戦地区はworld of junkの存在があってこそなりたっているようなものなのだ。
「桑畑さん、中立のはずの貴方がなぜそんな要求をするのか……訳を聞かせてもらえますか?」
炎真の保護の件だろうか。
心なしか氷河の顔が青ざめて見えた。
「此処は能力者を兵器として見ないからな。信頼できる」
中立だからこそ見て来た事。
チームが能力者達をどのように見ているのかなんて手に取るようにわかってしまう。
「……………指導者に話を伺わないことにはなんとも言えませんね……」
しばしの沈黙の後、氷河は答えた。
頭の固い氷河にここまで言わせることが出来ただけ上出来だ。
―――ピピピ………
ホッと桑畑が胸を撫で下ろすと無機質な電子音が静かな空間にこだまする。
それは氷河の羽織っているコートのポケットから流れていて、氷河は無言で取り出すとボタンを押して耳にあてた。
「…はい」
(…コート、暑くねぇのか?)
顔を合わせる度に思う。
霧のせいなのかわからないが季節感覚がおかしくなっているのか?因みに今は6月だ
「……!」
氷河の表情が突然険しくなり、あー、よくない報せか、と桑畑が眉をひそめた瞬間、
「何故先に報告しなかったんですか!!」
氷河の怒鳴り声が空気を裂いた。
ただ事ではないようだ。
桑畑は驚き耳を押さえた。
氷河と言う男がこんな怒りかたをするのをはじめて見たからだ。
「わかりました、今からそっちに行きます」
乱暴な手つきで携帯のボタンを押し、ポケットに押し込む。
礼儀作法に五月蝿い氷河にしては本当に珍しい。
「急を要する事態になったようです」
「幹部様は忙しいもんだなって、おい!」
言うや否や走り出した氷河に桑畑は慌てて後を追う。
2人がいなくなった展望台は元の静けさを取り戻す。
巨大な鳥が霧に紛れてすぐ横を通り過ぎたのを知る者はいない―――………。
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