Act1~一日目と月~

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 さて、夏の授業は実に身が入らないものだと進はあらためて思った。  腕から染み出た見えないほど小さい汗で、机の表面に腕が引っ付く。 額の汗が気になって集中できない。 窓を開けても風は無く、ムワッとした空気がただあるだけ。  そんな経験をした方も多いだろう。  進はいま、社会科教室で倫理の授業を受けていた。  こじんまりとした教室で、古い木材の臭いが辺りに漂い、教室の後ろは乱雑に椅子やら机やら地球儀やらが置かれ、ほとんど物置と化している。  今にもゴキブリが飛び出しそうだ。  この社会の時間、生徒は倫理学と政治経済学で選択科目になっており、同じ時間に別々の場所で授業を受ける。  そして政経の方が選択者が多いため、少数派の倫理はこんな小さい教室に追いやられている――というわけだ。  進はまるでサウナのような教室で、汗を拭いながらキルケゴールだとかニーチェとかの理論についてノートをとっていた。  クラスには10人ほどしかいない。  教室にはやかましい蝉の声と、ぼそぼそとした先生の声だけが聞こえていた。
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