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さらに言うと、進が知っている顔もいなかった。
一輝も間宮も美緒も、その他の友達も、みんな政経を選択していた。
つまり、ここにいる人は三年になって初顔合わせの人ばかりだった。
進が黒板を見ながらノートを映していると、不意に足元に消しゴムが転がってきた。
大切に使われているようで、1、2センチほどの大きさしかない。
拾いながら転がってきたもとをたどると、女の子が申し訳なさそうな上目使いでこちらを伺っていた。
少しウェーブがかった黒髪の下から、まるで夜の海のような漆黒の目が覗いている。
肌は今まで一度も日に当たったことがないと思わせるほど白く、体も顕著で、まるで人形のようだった。
彼女は口元に穏やかな笑みを浮かべながら、手をそっと出してきた。
進は微笑を返しつつ、その白い掌に消しゴムを乗せた。
渡す一瞬、進の指先とそのきめ細やかな肌が触れ合う。
そのあまりの柔らかさに驚き戸惑いながらも、進は手を離した。
その子は首だけでお辞儀をして、授業に戻った。
ほんのわずかな時間だったが、なぜか進には9秒ほど時間を止められたような気がしてしまっていた。
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