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進はたしかあの子が出欠確認のとき、『水城』という名で呼ばれていたことを思い返した。
大人しい子で、昼休みも一人でお弁当食べ、誰ともほとんど会話もせず、いつも一人で帰る。
もしかすると特に親しい友達もいないのかもしれない。
もちろん彼氏も。
進の今までのイメージは(本人には悪いが)『暗くて地味な子』だ。
というか進だけでなく、クラスの誰もがそう思っているだろう。
しかし、いま進の中にほんのりと、小さな花のつぼみが生まれた。
進自身、なぜこんな気持ちができたのかとばかばかしい思いで自分を嘲笑する。
たしかに水城は意外にもかわいらしい顔をしていた。
その顔に一瞬魅せられた自分もいた。
「でも、自分は美緒に秘めたる想いがある。」
その事実に変わりはない。
ところが、美緒には彼氏がいる。
それは進もよく知っており、何回か顔を突き合わせた事もある。
正直、進はあの男より勝る自信がなかった。
それほど優秀で、かつ美緒を深く愛している。
なら自分は相応の相手として新たな人を見つけるほうが良いのかもしれない。
「だが水城さんは無いだろう」
進は苦笑いした。
「彼女ができた」などと言って一輝なんかに紹介したら、引かれること間違い無しだ。
というかなぜ水城さんが付き合ってくれる前提で話を進めているのか。
進が心の中でまぜこぜになった気持ちを整理しているうちに、いつの間にか授業終了のチャイムが鳴っていた。
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