Act1~一日目と月~

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 さて、そんな彼がなぜあくびをしながらこんな早朝に外出しているのか。  彼の手からリードが伸びていることに注目してもらいたい。  その真っ赤な紐の先には小柄なシェパード犬がつながれている。 普通なら凛々しい顔立ちの中型犬だが、こいつはそれよりちょっとばっかし小さい。 小さいわりにはぐいぐいと進を引っ張っていく。  名前は『シュリ』。 といっても進の犬ではない。  お隣に住む一人暮らしのおばさんが夏のこの一週間、スペインに行くということで、青空家が代わりに預かっているというわけだ。  毎日朝夕、二度の散歩と朝昼晩にドッグフード。 少しわずらわしいが、人懐っこい彼を見るとその思いもどこかへ吹き飛んでしまう。 それに、預かっているわけだから責任も持たなきゃならない。  進は初日の朝の散歩の課題をなんとかクリアした。  黒いベンツが家の前を通り過ぎていく。 進は家の軒下にシュリをつなぎ、家の中へ入った。
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