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灘友子は巨大過ぎる門の前で立ち尽くしていた。
頑丈そうな鉄格子が延びる門は、人を入れるための物体にも関わらず、どこか人を寄せ付けぬ雰囲気を放っている。高さは友子の身長よりも高く軽く2メートルはあるかという程で、上部に突き出た格子の先端部分は鋭く尖っている。また、門の取っ手は得体の知れぬ珍獣の彫刻で出来ており、友子はとてもではないが趣味の良い装飾とは思わなかった。
-厭な所に来て仕舞ったな。
友子は滴る汗を拭いながら嘆息した。しかし、ため息をついたところで誰かが救ってくれる筈も無い。謂れを信じればただ幸せが逃げていくばかりである。仕方無しに門の横にある色褪せて黄色くなった呼び鈴を鳴らした。
ジリリリリ
呼び鈴が鳴り終わると、中から低く篭った男の声が聞こえてきた。
「はい。桜花です。」
声の主はどうやらここの館の執事らしかった。友子は少し緊張気味に声を高くして呼び鈴に向かって声を上げた。
「あ、あの、桜花好子の妹の、灘友子です。え、えと、あの」
友子が口篭っていると、言い終わる前にマイクからの声は言った。
「友子様ですね。お話は伺っております。どうぞお入り下さい。奥様がお待ちです。門は開いておりますので。」
友子は声が止むとまた門の前に戻り、ゆっくりと門の鉄格子を開けた。
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