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最初に目に映るのは鬱蒼とした木々。手入れされた様子の無い庭は雑草が腰の高さまであり、また蔦がのたうちまわる様に地面を這っていた。かろうじて館まで通じる石畳が判別出来たが、それも苔がびっしりと石を覆う。
靴が汚れぬよう、友子は踵を浮かせながら石畳をぴょんぴょんと跳ねた。
進むにつれ、だんだんと館の全貌が見えてきた。
友子はここを訪れる度に中世のヨーロッパに迷い込んだような感慨に陥る。ほとんどの部分が石で出来ており、世界史の教科書に出て来るマリーアントワネットの邸宅を彷彿させるような純洋風建築である。正面に巨大な玄関があり、三階まである部屋には一つずつにこれもまた巨大な出窓が付いており、来訪者を圧倒した。
しかし、それほどに壮観で由緒のありそうな館にもかかわらずどこか寂れた印象を受けるのは、やはりその建物を這う蔦や爛れて氷柱のようにぶら下がるコンクリートの雫が原因なのだろうと友子は思った。
-まるでお化け屋敷みたい。
中学の理科で酸性雨がコンクリートを溶かすということを習った気がする。恐らく長年手入れもされていないせいなのだろうと友子は予想を付けた。
友子が玄関の前に立ったのとほぼ同時にドアが開いた。そして中から背の低い、人の良さそうな初老の男が現れた。
「友子様、お待ちしておりました。暑いでしょう。さあ、早く中へお入り下さい。」
自分の方がよほど暑いだろうと言いたくなってしまいそうな真っ黒な背広を来た館の執事は篭った声でそう言った。
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