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豪奢な扉を抜け、館の中に入った途端、涼しげな冷気に包まれた。
「お、お邪魔します」
友子は恭しく言った。館の執事は皺を作ってにこりと笑って奥のほうに手を向けた。
「奥様の書斎はこちらです。」
「あ、いや、前に来た時ので覚えているので、大丈夫ですから。大杉さんは休んでらして下さい。」
友子はそう云って中に足を踏み入れた。
玄関は小さなホールになっており、正面には長い廊下が延びていた。スリッパに穿き変え、赤い絨毯の上を歩く。両側の壁には扉が列なり、その間には絵が飾られていた。館の主人は絵画をコレクションしているという話を前に好子に聞いてはいたが、飾られている大小様々な絵はとてもでは無いが美しいとは云い難かった。
「このような絵を心象画と云うのだそうですよ。」
大杉は友子の様子に気がついたのか、そう云った。
「心に浮かんだ物や事、また夢を絵に書き表しているのです。ほら、これをご覧下さい。」
大杉は友子の少し先の所で立ち止まり、一つの絵を指差した。
男の絵だ。悲痛の滲んだような顔をした男の腕と足首に枷が付けられている。周りは迫るような黒い壁が囲んでいる。友子は何とも不気味な絵だと思った。
「これは、牢屋ですか?」
「具体的にここがどこで、彼がどのような理由で枷を付けられているか、ということは分かりません。と云うより、この作者はそれを実際に想定してはいなかったでしょう。先ほども申しましたようにこれは心の内情を描いているのです。ちなみにこの絵の題名は「閉塞」です。」
「閉塞、随分と暗い題名ですね。」
「作者、そしてこれを見た人の心の不安や閉塞感、束縛感を描きたかったのでしょうね。」
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