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「確かにこの絵を見てると鬱々とした気分になってきます。」
「それが、作者の狙いなのでしょう。」
大杉はそう云うと歳を感じさせぬ無邪気な笑みを見せた。館の雰囲気に飲まれそうだった友子はその笑顔にいくらか救われた気がした。
廊下を進み、突き当たりの階段を上るとようやく姉の好子の書斎が見えてきた。他の扉に比べ少し大きく重そうな扉には、「好子は在室」と下手な字で書かれたネームプレートが掛けられていた。大杉はお茶を用意してくると云って階下に降りて行って、残された友子は一息付いて扉をノックした。
「お姉ちゃん、私だけど。」
「どうぞ。鍵は開いてるから。」
友子は鈍く金色に光るノブを回して中に入った。
10畳以上はありそうな大きな部屋の壁一面には本棚が並んでいる。そして、真正面に窓があり、その前には好子の仕事机があった。天井が高く、一面に花の絵が描かれており、中央からシャンデリアが垂れ下がっていた。
「ゆーちゃん、久しぶりね。」
好子はくるりと仕事机の大きな椅子を回転させて友子のほうを向いた。
長い髪を結い上げ、前はピンで止めていたが、そこには友子のよく知る姉の顔があった。灰色のブラウスの上に膝まであるような長い白衣を纏った好子は友子の顔を見ると嬉しそうに笑った。
「えっと、こないだのゆーちゃんの誕生日の時以来だから、ああでもまだ一ヶ月くらいか。もう随分と長い間会っていなかった気がしたな。」
好子は唇に人差し指を当て、上を向いてそう云った。
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