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「まあ、こんな館で閉じ込って生活してれば時間の感覚も狂っちゃうよ。」
友子は低い声で云った。
「あら、どうしたの?そんな暗い顔して。何か厭な事でもあったの?」
「厭な事は無いけどさ。」
好子はそう?と云って立ち上がると、友子の目前まで近付いて云った。
「新しい制服もようやく慣れてきたって感じね。この髪型も可愛い。」
好子は笑った。
この人は本当に分からずにいるのだろうかと友子は思った。そして自分より少し背の高い好子を見上げるように睨んで云った。
「お姉ちゃん、けっこう噂になってるよ。今回のこと。」
「今回のことって?」
好子は笑った。
「そのさ、お姉ちゃんの、今回の結婚の事。」
「どんな事?」
好子は笑った。
「お姉ちゃんは遺産狙いで結婚した、とか、そのために保険にも入らせた、とか。」
「そう。」
「誰だってそう思うよ。そう思うのも仕方ないよ。だってさ、だって、」
「だって?」
「お姉ちゃんの旦那さん、ううん、このでっかい館の主人、今年で78歳じゃん。」
「そうね。」
好子は笑った。
友子は顔を歪ませた。
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