第一夜

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―――具体例提示 「もしあんたが近所の年増なオバサンに 『私、最近タケ🌕クリニックに行ってるのよ。どう?』  なんて聞かれたら、例えそこに目を背けたくなるような現実しかなくとも 『はい、とてもお美しくなりましたね』  とか気を利かせて答えとくもんでしょ?」 「そうか、あんたも年なのか」  ぶたれた。  理不尽の一言である。 「お姉様に向かって無礼よ」  お姉様は寛大じゃなかったのかよ。 「空気を読めっつってんの! 『私、キレイ?』  って聞かれたら普通返す言葉があるでしょうが!?」 「ポマード」  跳び蹴りされた。  ふざけんな、馬鹿野郎の二言に尽きる。 「その名を口にするなぁ!」  女は苦しそうに呻きながら髪をブンブン振り回し、同じく宙にブンブン飛んでいた羽虫どもを一掃した。  少し離れた所からは小さな子どもがこちらを指さし、母親がそれを制しながら逃げるように去っていく。  気付けばオレの周りには、この頭のイカれた女以外の生命の影を確認できなかった。 「ポマードって言うなぁっ、  ぐはぁっ! 自分で言ってしまったぁっ!!」  早く帰りたい、オレの願いはそれだ けだ。
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