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希代の陰陽師の娘、その名は葛葉姫
平安時代それは平和な世とは裏腹に…夜ともなれば百鬼夜行という物の怪たちが京を練り歩き。
すきあらば疫神が京に被害を起こすため侵入しようと虎視眈々と狙っていた時代。
都を守る希代の陰陽師安部晴明はある事件で邸を留守にしていた。
その留守をまかされていた一人の少女は昼の京と同じように平和で暇な生活を送っていた。
「あ~~~あ~つま~んな~い!」
そう大声で叫ぶ少女はゴロンと寝転がり、読みかけていた絵巻ものを足で蹴飛ばし、絵巻ものは広がっていく。
広がっているのは絵巻以外にもある。
囲碁の石は散乱し、父からもらった見本の札を清書していた紙は紙屑として…見事な散らかりぶりである。
すべてが暇でたいくつで今の葛葉には何の興味も示さないものだった。
葛葉は今年で十歳になる少女。
ふつうの姫ぎみと異なっていた。
長い髪は高く上の方に縛り上げ、赤いリボンをしているし、桂を着て楚々として深層に隠っているような服装もしていない。
葛葉と同い年くらいの男の童がきるような狩衣を着ているが、括り袴ではなく足首の高さまでに切った緋色の袴をはいている。
まるで白拍子のような姿。
だが、葛葉はその服装が一番自分に似合っていると思うし、なおかつ動きやすいのだ。
「父様はこの頃は忙しくて陰陽師の術とか教えてくれないしー」
またゴロンとする。その動作をしながら、御簾を蹴りあけて日当たりのよいところまで転がっていく。
日当たりの良いところまでいくとぬくぬくして気持ちがよい。
大の字になって空をあおぐ。
「それに…光栄さまからお文もまだこなーーーい!つまんなーーーーい!」
不満を大声で叫ぶ。一番の不満は愛しい許嫁からの文が来ないこと。
もう1週間も前に出した返事がこないのだ。
そこは恋する姫ぎみそのものだが態度はまだまだ子どもだった。
「まったく…はしたない姫君だな~はしたない上にだらしのない……」
父の式神で葛葉のお付きをしている青い印象の式神童子の『氷』が散らかした部屋を見て呆れた声をだした。
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