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――またまた。頑張ってって言われるの、そんなに嫌うもんかねえ。でも捨てばちになったが最後だよ? ね。
小男は微笑んだ口元に細い人差し指をあて、静かにというジェスチャーをする。Aは憤りに任せて横の電柱を叩くと叫んだ。警察を呼びたいなら呼べ、何がしたいんだおっさん。Aは啖呵(たんか)を切って男につめ寄る。突き飛ばして逃げるなら今だ。Aのスニーカーが路面を蹴った。
――そんなに怖がらなくたって大丈夫。僕ならもう、わかっているんだから。
不意に真っ暗な角から風が舞ったかと思うと、砂を巻き上げ少年めがけて吹きつけた。
――おじさんね。君のこと、何でもわかっているんだ。
風が笛に似た音を残して闇の隙間に消え、男がまた「つつ」と、路面を滑って来る。そしてもう一度逃げようとした肩を優しくつかみ、細めていた目を見開いた。
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