1⃣始まりはいつも突然に

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   手渡されたのは俗に言うお見合い写真のようだった。  中身も見ないで薄くベージュ掛かった上質な丁装の裏を見ると、撮影された写真館のマークが入っている。  その名前を口の中で飴玉の様にころがしてから、その建物の外観を記憶から呼び出した。 「あぁ、ここ。  腕がいいって評判の写真館じゃない」 「誰がそんなとこに注目しろって言ったの!  中を開きなさい!中を!!」  どうやら余計な意見は不要らしい。  はぁい、と口の中でもごもごと返事をしながら、彼女はしぶしぶ写真を開いた。  突き刺さる視線から顔を隠すように、厚紙を広げて中を確認する。   「……なにρ(・д・*)コレ」  思わず顔文字になってしまうほどの写真だった。  いや、写真すらそこにはなかった。  明らかに無理矢理剥ぎ取られた形跡があり、「断固見合い拒否」と太い油性ペンでデカデカと書かれている。  これには香澄を始め、娘の発言に上から覗き込んできた――おそらく中身の参上を知らなかった――彼女の母も、口を押さえて絶句した。 「……向こうは結婚はともかくとして、お見合いするつもりなんてさらさらないみたいよ?」  パタンと写真を閉じて、してやったりの顔で香澄は母に視線をやった。  どこのどいつかは知らないが、これは余りにも常識というか、モラルが無さ過ぎる。  相手に顔を晒すつもりさえないのだ。  こんな失礼な見合い写真を見せられれば、さすがヒステリックな母だって――どんな良縁かは興味もないが――見合い話を蹴るに決まっている。 (これでこの話は無かったことになるよね)  話は終わり、とばかりに彼女は再びソファーに寝転んだ。  スナック菓子に手を伸ばし、視線はサングラスを掛けた人気コメディアンに固定する。  最近買ったばかりの、地デジ対応の液晶テレビは、とても映りが良く、彼女のお気に入りのアイテムとなっている。 既に部屋のブラウン管のテレビを観る気はなくなってしまった。 *
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