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「それで?」
「それでって?」
香澄は自分の弁当に箸をつけながら、葉子の疑問符に首を捻った。
「あんたね、天然なのはいいけど。
自分が一体何を泣きついてきたのか覚えてないの?」
「あぁ、忘れてなんかないよ。お見合いの話ね。
葉子に叫んだらすっきりしちゃった」
さっきとは別人のように、ケロッとした態度で香澄は頷いた。
いつものことなのだが、あっさりとした彼女の性格に親友は嘆息する。
「でたよ、一回叫ぶと何でも吹っ切るあっさり癖が……。
それで、結局どうするのよ」
「一応、会場には行くよ?
この際折角だからさ、伸ばすだけ伸ばした髪も切って、イメチェンしようかと思ってさ。
だって、あのとき切ろうかと思ったけど、伸ばしかけの髪を切るの勿体無くて出来なかったんだもの」
香澄は自分の痛んだ毛先をひょいと摘みながら、過去を思い出したのか口を尖らせた。
あれから季節は何回流れたのか。
肩より少しだけ長かったセミロングが、今はすっかりロングの域に達している。
最近櫛で梳かすと、引っかかって困ってるんだよねぇ……、と呟く香澄を呆れ半分の目で見ながら、本当に吹っ切ったらしい過去に安堵していた。
「案外行ったらイケメンかもよ?」
「イケメンは好きじゃないもんねぇ。
可愛い女の子と綺麗なお姉さんは好きだけど」
「……あんた、案外ゲテモノ好みだもんね」
はぁ、と遠慮なく溜息を漏らした綺麗なお姉さんの友人に、香澄は言い返す。
「葉子のだんな様だって、ゲテモノに近いじゃない」
「世間的に見て、という一般論なら否定はしないけど。
それでもあたしにとったら最高に素敵なだんな様よ」
「――ご馳走様でした」
香澄の嫌味すらさらっと流し、尚且つ惚気た葉子に、敬服した彼女は素直に頭を下げたのだった。
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