Prologue

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「………ぁ……………?」  答えようとして、どうしてだか口が動かなくなってしまった。口だけじゃ無い。脳が、脳がまず答えを教えてくれなかった。 「答えられないなら無理しなくて良い。下手に脳に刺激を与えるのは、今は毒にしかならない」  それだけ言ってまたカルテにボールペンを走らせた。けれど、黒のボールペンでは無く赤のボールペンで。  それをぼんやりと見ながら、俺はさっきの質問に対する答えをひたすらに考えていた。  尋ねられたのは俺の名前なんだから、俺が答えられない筈が無いんだ。というか、俺が答えなきゃ誰が答えられるんだ。 「──ガッ!? うぁ……!?」  何か答えが出てきそうになった瞬間、後頭部から激しい痛みが襲ってきて、俺はたまらず呻き声を洩らした。これは……、さっきあの部屋にいた時に起こったのと全く同じ。 「だから、答えられないなら無理しなくて良い、と言ったんだ。下手に思い出そうとしても、脳がそれを拒んで身体に負担が生じるだけで何のメリットも無い」 「思い出す……?」  答えられないなら無理しなくて良い、と言った後に、思い出そうとしても、と確かに言っていた。それは、どこか言葉が矛盾してはいないだろうか。
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