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『ただの風邪…ね。』
左之さんが出ていった方を見ながら僕は呟いた。
花見の話をせっかく持ちかけてくれたのに、それを断った。
『皆に風邪をうつすと悪いからね…』
苦し紛れの言い訳だと分かってる。
そう言った僕を見た時の左之さんの寂しそうな顔が、なかなか頭から離れなかった。
きっと左之さんは気づいてる。
僕がただの風邪じゃないってことを。
いや、左之さんだけじゃない…
きっと皆気づいてる。
こんなに長い間近くにいたんだ。
気づかないわけがないよね。
そう思うと『ただの風邪なのに…』と繰り返し言っていた自分が馬鹿らしくなってくる。
『馬鹿なのは僕だけじゃないか…』
そう言って見飽きた天井を眺めた。
そう…分かってる嘘に合わせてる皆だって馬鹿だよ。
誰も、そのことについて何も聞かなかった。
『体調が悪いんだろ。』
その程度に止めて、それ以上のことは言わなかった。
優しいんだか、残酷なんだか…
そう言って、ハハっと笑った。
桜が咲くと、花見だと言っては酒を飲んだ。
特に左之さんと新八さんはひどいもので、あの二人だけで殆どの酒を飲み尽くしていた。
それに対して僕と平助くんが不満や嫌味を言っ
ても、まったくおかまいなしだったけど…
その様子を見て見ぬふりをしているのか、一君は一人で静かに呑んでいたし、近藤さんは『賑やかで良いな。』と言って笑った。
そして、いつものタイミングで土方さんが僕たちに一喝をして、その場は一時おさまる。
そんな土方さんに近藤さんは『いいじゃないか、今日は花見なんだから。』と言っていた。
桜が咲いていた頃は、毎日のように花見をしていたので『今日は』なんて言葉は何の意味もない。
それなのに土方さんは『今日だけだからな。』と、毎回言っていた。
この人も本当僕たちには甘いよね。
鬼の副長の名が聞いて呆れるよ。
それが毎年の恒例行事だったのに。
何が変わってしまったんだろう…
あの頃から変わったもの…
僕が変わったから…
僕が変わってしまったから…?
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