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『あ…沖田さん起きてましたか?』
しまった…驚かせてやろうと思ってたのに。
『君の足音が聞こえたからね。』
なんとか胸の内を探られないように、いつもより少し意地悪く笑ってみせた。
『え…あっ!!すいません…』
両手で桜の枝を持ち、彼女は慌てて頭を下げた。
『それで?その手に持ってるものだけど…どうしたの?桜の枝のように僕には見えるんだけど。』
体を半分起こして僕は彼女が持っている桜の枝を指さした。
『さっき左之さんが来て言ってたけど…まさか君も花見をしようとか言い出すんじゃないよねぇ?』
『う゛…』
どうやら図星だったらしく、彼女はぐっと息を詰まらせていた。
『ふ~ん…で、その枝どうしたの?』
『あ…これは…』
『まさか…折った、とか言わないよねぇ?』
『え…えっと…』
『それとも運よく道にでも落ちてたとか?』
『あのっ…』
『ま、どっちにしろこんなところにそんなもの持ち込んだりしたら土方さんが黙ってないと思うけど?』
『…。』
少しイジメすぎたのか、彼女はついに口をつぐんでしまった。
分かってるよ。
彼女が僕のために、こうゆうことをしてくれているってことは。
『……それで。どうしたの?』
僕はそんな彼女が愛しくてたまらない。
僕の方を見た彼女の顔が少し明るくなった。
『あの…皆さんがお花見をするそうなので、沖田さんにも桜を見せたいと思って…。』
そう言って彼女は桜の枝を差し出した。
『そんなとこにいないで、こっちにおいでよ。』
僕は彼女を傍に呼んだ。
彼女の手に握られた桜の花を見るともう満開を通り過ぎて散り始めていた。
『なるほどね。だから左之さんは花見をしようなんて言い出したのか。』
春の風は強い。
きっと明日には、もう桜は全部散ってしまうかもしれない。
それに、そんなに長くはないがゆっくりできる時間が取れるのも久々だった。
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