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しばらく本田は寮から会社の生活から家から会社の生活になっていた。
やはり弟の死は本田家に暗くて重い影を落としていた。
本田も遠距離の通勤や泊まり勤務やらで身も心も疲れきっていたがそれでも両親のことを思うと可哀相で家族の前では疲れを顔に出さなかった。
本田は未だに自分が家族に何がしてあげられるか、どうやったら家族が少しでも喜ぶだろうか、そして今の状態でなにが家族の幸せなんだろうかと日々思い悩んで見つけられずにいた。
しかし、本田も会社帰りに家族にお土産を買って帰ったり、家族とできるだけ一緒にいようと、本田なりの気を充分に使った。
とりわけ本田が買って帰る駅弁は家族にすこぶる好評だった。
弟の死依頼、あまり両親は外出をしなくなった。もっとも休日の外出先といえば弟のお墓参りとちょっとした買い物くらいだったから駅弁などその地域の特産品が入っているもので、少しでも旅行に行った気分になれたのだろう。
「今日は広島駅で牡蠣めしを買ってきたよ、この赤いしゃもじの弁当箱よくテレビとかでもみるだろ」
本田は広島県の観光地のパンフレットなどを見せながら、
「これから暖かくなってきたら、厳島神社や三段狭も綺麗だよ。」
「そうねぇ…春子も正美もどこにもつれてってないから、もうすこし落ち着いたら行ってみたいわね。お父さん…。」
「そうだな、若い時に行って行ってないなぁ。」
「お兄ちゃん、このシカは?」
「ああ、宮島だよ。いっぱいおるけぇびっくりするよ。」
「行きたいわぁ」
「親父、たまには出かけてみたら?」
「おう、そうじゃの…。」
本田は少しでも両親に元気になってもらいたい気持ちでいっぱいだった。
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