第1章…海沿いの町から。

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合コンが始まって同僚が女の子と楽しそうに話しているが、デブで無口な本田の横には女の子は誰も座ろうとはしなかった。 たまに同僚が隣りにやってきて、「楽しんでるか?」と聞いてくるので、人のいい本田は「ああ」と笑みを浮かべるのだった。 (女の子と話したいなぁ…。)本田は内心そうおもいながらビールをぐいと飲み、ただ時間がすぎるのを待っていた。 しかし、そのうちお酒が回ってきて、本田はお酒の力をかりて女の子に話しかけようと女の子の肩をたたいたその時だった…。 「さわるなやデブ‼アンタ帰れや‼」 あまりに唐突な出来事に一瞬まわりが静まり返った。女の子はそのまま本田をにらみつけている。本田は一気に酔いが冷めて、「ゴメン、帰るわ…。」と足早に店を飛び出した。 「おいっ‼本田‼」と同僚が呼び止めようとしたが、振り返ったら涙がこぼれそうだったので本田は振り返ることなく三原の夜の町を足早にあとにした。 泣いているのを見られたくなかった本田は声を殺して暗がりの道を歩いていたが、ポロポロポロポロ涙がほうをつたって流れた。 「みじめぢゃのぅ…。情けないのぅ…。」 糸崎港の船止めに腰を下ろし、まわりに人がいないのを確認して本田は声をあげてオイオイと泣いた…。 しばらくして本田の携帯が鳴った。本田はびっくりして袖で涙と鼻水をゴシゴシ拭いて携帯をとった。 「おいっ‼本田‼今どこにおるんなら‼あれからすぐに寮に帰ったけど、部屋にいないから…。大丈夫か?…。」 「…大丈夫。もう少ししたら帰るけん…。」 「わかった💦はよ帰れよ…。みんな心配しとるけぇ…。」 本田は携帯を切るとまたオイオイと声をあげて泣いた…。 せっかく同僚が合コンを楽しんでいたのに、自分のせいで合コンを台無しにしてしまったという気持ちやら、不甲斐ない自分の情けない気持ちといろんな気持ちがごっちゃになって、本田はなんともいえない気持ちになった。 いつもは夜釣りで人がいる糸崎港だが今日は月明りにぼんやり照らされてむせび泣く本田と桟橋に押し寄せる波の音だけが港に聞こえるのだった…。
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