―追憶―

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 ――――痛い。  腹部に激痛を感じながらも俺が目を覚ますと、そこはさっきまで居た遺跡の地面だった。粉塵が多量に混ざった空気が鼻に入り、俺は咳込む。  高層ビルの様な建造物が乱立し、とても遺跡とは思えなかったが、それらの外壁には解読不能な文字が書かれており、どこか古めかしい雰囲気の漂う所であった。  そして、俺が泥まみれになりながらも立ち上がって周りを見渡すと――一人の女が血まみれになって地面に倒れていた。  「……っ!」  それを視界に入れた次の瞬間、俺は足を引きずりながらソイツの方に走って行った。  「優……里……!」  半ば倒れる様に屈み込み、俯せに倒れてる女――優里を抱き抱える様にして、俺は顔を覗き込んだ。  普段は美しかった茶髪は乱雑に顔にかかり、それに隠された白い肌は生気を失ったかの様に青白く、長い睫毛を伴った瞼は閉じていて開く気配が無い。  「……おい? 優里、起きろよ」  白い戦闘服に包まれた体を揺さ振るが、反応無し。無駄だと分かりながらも、俺はその行為を続けた。  「おい、ふざけんなよ、何で俺を置いて行って死んでるんだよ!? 何で俺なんかを庇ったんだよ!? 起きろ、起きろぉぉぉっ!」  涙が零れて、土で汚れた彼女の頬に落ちる。けれども、優里は返事もしなかったし二度と目を開けなかった。
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