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「知ってる人もいると思いますが、先日から田端先生の行方がわからないので、今日から、私が代理でここの担任になります」
一瞬、空気が止まった。やはり、皆は、田端先生の行方が気掛かりなのだ。ヒソヒソと話し声も聞こえた。昨日のトラブルに続いて今日のこれだ。皆も興味が沸くのだろう。人間の性(さが)と言うべきか。
「と言うことで、今日は皆さんには自己紹介をしてもらいます」
何が「と言うことで」なのか判らないが、行方不明の先生がいるのにこのなんとも言えない空気はある意味救いだったかもしれない。
「今日から代理でここのクラス担任をすることになった、水野幸恵(ゆきえ)です、因みに、独身です、えっとそれでは出席番号順から自己紹介して下さい、出席番号一番からどうぞ」
なんというかこのしゃべり方でどういう人なのか分かったような気がする。この先生から放たれるなんとも言えぬ癒しオーラ?を感じ取ったのか周りの生徒もザワザワしはじめた。
窓際の席の1番前の女子生徒が立ち上がった、腰まで伸びている黒い髪が印象的だ。手入れが行き届いているのか、サラサラときめ細かい髪が腰元で踊っている。
「出席番号1番の明石雪です、よろしくお願いします」
透き通るようでいて尚且つ良く通る声でそう言うと席に着いた、席に座る動作から、教育されてきたような印象を受けた。
「出席番号2番、昭実真二です、よろしくっ、好きなスポーツはサッカーです、よろしくお願いします」
元気がよく、短い髪が特長的でいかにもスポーツ少年のような印象を受けた。
「出席番号3番…」
こうして自己紹介が始まった。
そうこうしている内に俺の番が回ってきた。
「出席番号25番、鶴来(つるぎ)紅(こう)です、よろしくお願いします」
*****
自己紹介が終わり、一時間目のHRの授業が終わった。2時間目、3時間目、4時間目も終わり、昼休みになった、俺はまだ話し相手も居なかったので一人で姉が作ってくれた弁当を食べていた。
もう既に話し相手の居る生徒もちらほら居て、正直、羨ましいと思えた。 今日の弁当の中身はタコウインナーと野菜炒めに玉子と唐揚げに…しごく一般的な中身だ、一般的と言うのは姉に失礼な気もするが。弁当を食べ終わってから俺はふと周りを見渡した、見渡す事に特に意味はなくただ何となく見ただけなのだが、丁度、窓際の一番前に座っていた女子生徒と目が合った。
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