目標は目の前に

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吉川さんとは別れ、それぞれの集合場所へ。 監督の予定変更により俺達が来たのは、2年に進級して使い始めたばかりの2階の教室だった。 隣の教室から声が聞こえてくることから、結局、女子野球部もミーティングらしかった。 教室の扉は開いていて、中に入ると、見知った顔とそうでない人が目に入った。 なるほど、新入部員との顔合わせか。 俺たち2年部員は全部で11人。とっくに席について待っていた。 しかしどうも、その見知った顔が自分を除いて9人しかいなかった。 「あれ? ノモは?」 「野元? あいつはまだ曾じいちゃんの葬式だってよ」 俺の素朴な疑問にあっさりと答えをくれたのは、中澤由伸(ナカザワヨシノブ)だった。 机に肘をつき、手のひらの上に顔をのせている。気だるそうに外を眺めていた。 基本的に『野球はプレーしてなんぼ』と考えている中澤にとって、この待ち時間とミーティングという形は、特に退屈だったのかもしれない。 まあ、俺に少し冷たい態度をくれるのは、普段通りなので、別に機嫌が悪いわけではないだろう。 無駄にある目力と、骨格のはっきりとした顔の輪郭のせいで、少し顔が怖いだけである。 そう、少しな。 「あれれ? 今もしかして安達ビビってた?」 と、不名誉な言葉が聞こえた。 同時に、まだ春先のこの時期には涼しすぎてしまうような、爽やかな風が吹き抜けた。 風の主……いや、声の主は、白川秀(シラカワシュウ)だ。 白川が喋ると、教室が涼しくなる。いや別に俺を無駄に罵倒してすべっているとかではなく。 『白川君の声を聞いて笑顔を見て、爽快になりたいの』という多数の女子の証言よろしく、白川の爽快さは異常だった。 爽快になりたいなら家にある歯磨き粉でもいいんじゃないかと思うけれど。 そんなわけで、男子にしては高めの声もあってか、爽やかイケメンとして女子に人気である。 三神という男が、顔や頭脳、総合的なスペックで”学生”一番人気とするならば、この白川という爽やかボーイは、その次に人気だろう。 かっこ可愛いとか、優しいとか、そういうの、女の子好きだもんね! ちなみに、ちょっと怖い顔の中澤はワイルドが受けて同率3番目人気である。 野球部の顔のレベルが高い。 ……野球のレベルはどうした。 「おお。集まってるじゃないか。悪いな、急に変えて」 と、そこに、ようやく来た。 ”先生”一番人気である。
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