野球少女

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「あ、そうそう。転校生だってさ」 にやにやと近寄り、耳元でこっそり伝えてくる。 俺は眉を寄せつつ、聞き返す。 「転校生? 性別どっち!?」 男だったら野球部に勧誘してやろうかな、なんて考える俺。 少し楽しみが増えたかと笑みを浮かべたとき、二葉は俺の肩を叩く。 「残念でした。女の子だよ!」 ぐっと、ガッツポーズを決めた彼の目は一段と細かった。 なんだ女の子か……。 俺は、はあ、とがっくり肩を落とす。 女の子か、この時期の転校生じゃあ、まず普通に帰宅部だろうな。 「普通女の子って言われたら高校生なら飛び跳ねて喜ぶのにな。安達はやっぱ変だよ……」 一歩下がりつつ、変態をみるような目で肩をすくめる二葉。 「二葉……」 二葉の肩を叩き返し、そのまま話を続けようとした。 すると、ずず、と俺の愛すべき女房は嫌な後ずさりをする。 おい。違うんだ! 聞け! 「俺は、野球部に入ってくれるやつのほうが好きだ。……別にBLじゃねぇぞ!」 グラウンドの野球部員がこちらに注意が向くほどの、結構な剣幕でまくし立ててしまった。 う…。グラウンドの端っこの女子野球部員までこちらを見る始末だった。 「わ、わかってるから! 怒るなよ。とりあえずうちのクラスじゃないし、明日から登校らしいからまだ関係ないよ! な?」 苦笑いの二葉、ちょっと目が開いていたのを、俺は見逃しはしない。 こいつ、まさか本当に変なこと考えてないよな? にしても転校生か。 4月というこの季節は、本当にイベントが重なる。 そういえば、うちのマンションもあわただしかったっけな。 思い出したようにポリポリと頭をかくと、ある可能性がうっすら頭によぎった。 ありえない、ことじゃあないけど。 いやいや、まさかな。 俺はキャッチボールを続けた。
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