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階段を下りて、いつもの自主トレ先である、駐車場につく。
マンションの建物構造はコの字型で、駐車場はそのコの字型の中に存在する形となっている。
そのため、周りからはちょうど隔離されているような形になっていて、俺としてはとてもバットが振りやすい環境だった。
おりると、暗闇からバットを振る音が微かに聞こえた。
なんだよ、素振りの先客がいたのか。
そっか、休日も近いし、おっさんが草野球でいいとこ見せるには素振りが一番だよな。
なんて、いつも一緒にバットを振っている5階のおっさんの顔を思い浮かべながら、そこまで歩いた。
おし! 俺も負けねー!
しかし、そこにいた人を見て、唖然とした。
5階の、じゃない。
「よ……吉川さんっ……」
そこで黙々とバットを振っていたのは、紛れもなく吉川亜澄さん。
俺、今日吉川さんに対して2打数ノーヒット2三振。
2タコのボロ負けだった。
顔あわせんのは本当はちょっと恥ずかしいっていうか、情けなかった。
「あ! 安達君! お疲れ! 偉いね。自主トレ?」
俺の声に気づいた彼女はバットをゆっくり下ろした。
さっき三振したから練習するんだよ!
とは、本人には言わないぞ。
にしても、自分のほうが技術的にはうまいってわかっても、態度変えない吉川さんには恐れ入る。
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